【留学編/セルト】保護者の受難2




「きゃーーーーっ!!」
早朝の閑静なバールに、突如、少女の悲鳴がこだました。

キッチンで三人分の朝食の支度をしていたセルトは、驚いて声のした方へ飛んでいった。
洗面所へ駆け込むと、中ではがこちらに背を向けて、呆然と立ちすくんでいる。
室内には、彼女の他には誰もいない。
どうした、と声をかけると、は涙目で振り返って、セルトに向かって叫んだ。
「ふ、増えてる!!」
「……は?」
「私の、体重が!増えてる!!さ、三キロも増えてるの!!」
興奮ぎみに話す彼女の足元には、この下宿で長年使われている、小型の体重計があった。
事態を飲み込んで、そんなことで大声出すなよ…と嘆息しかけたセルトの元へ、
さらに理不尽な言葉が浴びせられる。
「セルトのせいよ!!」
「はぁ!?…何で俺のせいなんだよ!」
「セルトのご飯が毎日おいしいから、食べすぎて太っちゃったの!どうしてくれるのよ!!」
「…………」

このままどんどん大きくなって、お嫁に行けなくなったらセルトのせいだからね!!
などと早口でまくし立てるに、セルトは今度こそ頭を抱えた。

強盗でも入ってきたのかと、心配した自分が馬鹿だった。


…確かに、下宿人の彼女に毎日食事を作っているのは、自分だ。
何を出しても「おいしい」と顔を綻ばせてくれる、あの無邪気な笑顔が嬉しくて。
彼女の笑顔がもっと見たくて、材料の買い出しにも、料理をする手にも自然と力が入ってしまう自分に、
ひそかに苦笑いすることもあった。
確かに、彼女が喜んでくれるのは嬉しい、とても嬉しいのだ…が。


「…そんなことまで面倒見切れるか!!」
返した言葉は、まったくの正論だった。
しかしは、セルトの反論にも聞く耳持たず、そっぽを向いて部屋から出て行く。
「もういい!私、今日からダイエットする!朝ご飯いらないからね!」
「おい待て、朝飯は食っていけ!体調崩すぞ」
「知らない!!」
どたどたと、騒がしく二階の自室に戻っていくを見送るセルト。
嵐が過ぎ去ったように静かになった洗面所に、入れ違いに彼の兄が、ひょっこりと顔を出した。

「セルト、おはよう。朝から賑やかだねえ」
「兄貴…悪い、起こしたか?」
「いや、もう起きてた」
いつもの柔らかい笑みを湛えたミルズは、セルトの脇を通って洗面台の前に立つと、鏡を覗き込む。
ちゃんとまた喧嘩?若い子は元気でいいね」
「元気なんてもんじゃねえよ……無茶苦茶だ」
言いながらセルトは片手で顔を覆い、天井を仰ぐ。

彼女の言動に振り回されるのは、一度や二度のことじゃない。
じっとしていれば可愛いのに、放っておくと、いや、放っておかなくても、何をしでかすか分からない。

まるで、怪物でも飼ってるような気分だ…と呟くセルトを鏡越しに眺めて、ミルズは楽しそうに笑った。
「言ってあげれば良かったのに」
「何を?」
兄の方を振り返って、訝しげに問い返すセルトに悪戯っぽく笑いながら、
ミルズはのいる二階を指差して言う。

「俺が嫁にもらってやるから、心配するな、ってさ」
「なっ……」




そうだ、今日学校の帰りにランニングシューズ買ってこなきゃ!
二階から、彼女の賑やかな声が聞こえてくる。




「…兄貴、立ち聞きしたな」
恨めしそうに呟いて、紅くなった頬を隠すようにキッチンへ戻っていく弟の姿を、
兄は笑いを堪えて見送った。






本家の投稿SS集に投下したやつ・その3。
駄文ばっかりですみません。



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